コンパス〜いつもそばで〜
「ダディ!ダディ!」
ゴール裏の二階の観覧席前のフェンス越しから、ピッチに向かって可愛らしい外国人の男の子が声を出している。
その声が聞こえたんだろう。その子の父親であろう外国人の選手が、真下にやって来て、サッカーボールを蹴り上げた。
ボールは狙ったようにフェンス越しの男の子の胸の高さまで上がる。
目の前に来たボールにフェンス越しに手を出して取ろうとする男の子。
何度も何度も繰り返す姿とキャッキャッと大喜びする男の子の姿は、見ていて優しい気持ちになる。
今日一日の嫌なこと全てをすぅっと消し去ってくれた。
いつの間にか、真下には父親だけでなく、他の選手も集まってきて、二つも三つもボールが男の子の目の前にやってくる。
「ヒデッ!ヒデッ!」
小さな男の子の声に、フェンスの下を覗くように見ると、そこには宮下くんが楽しそうに満面の笑みでボールを蹴り上げていた。
あの頃、『サッカーが大好きだ』と言った彼の笑顔が、そこにあった。