コンパス〜いつもそばで〜
「私、前田明日美って言います」
突然目の前に現れてそう言った彼女が、四年前、隣の席でノートを取ってくれていたあの子だと気付かなかった。
自己紹介して握手をしてくるファンの子なんて初めてで、驚いた。
だけど、何処かで聞いたことがあるような、そんな名前に思い出そうとしても思い出せなかったのは、目の前の彼女が、四年前のあの頃よりも綺麗になっていたからだと思う。
何処かで会ったことがあるかもと、ゆっくりと顔を見ようにも、他の周りのファンの子たちの声が多くて、対応するのに追われてしまい、ゆっくりと考える時間がなかった。
『私の名前ね、明日を見て生きるって意味らしいんだ――…』
ふっと、懐かしい声が頭を支配する。
「前田、あすみ……」
そうして思い出した。
彼女が高校一年の時、隣の席に座っていた前田明日美だと――――…