コンパス〜いつもそばで〜
「はぁ……」
「明日美はさぁ、誰かを好きになったことってないの?」
携帯をいじりながら沙耶が聞く。
「ん?」
「だからいつも冷めてるのかな。とか思ったりさ」
そう言って、お目当ての梶野くんと電話が繋がったのかワントーン高い声で彼の名前を呼んでいる。
「あるよ。……好きになったこと」
小さな声でそう呟いた。
好きだと気付いたの四年も前のこと。
でも、気付いたころにはもう彼は私の前から居なくなった。
あれから四年
それなりに付き合った人はいたけれど、あの時みたいな感情になったことはない。
「もう、忘れたよ」
そんな感情も何もかも