コンパス〜いつもそばで〜
渡せるか分からない手紙を鞄に入れたまま、最後まで練習を見る。
練習が終わるころ、辺りは薄暗く、夜空に一番星が灯ってた。
結局、最後まで宮下くんの姿を見ることはなく、
「帰る?」
その沙耶の言葉に、
「うん。帰ろっか」
そう答えて帰ることにする。ここにいても今日は彼に会えないから。
多くのファンの人たちが並んでいるクラブハウス前を通りすぎようとしたとき、
「ちょっ、待てっ!」
コウくんが焦ったように声をかけた。
コウくん、誰かにサインでも貰いたいのかな?
そうだよね。ここまで来たんだもん。また憧れの村田選手と写真でも撮って帰りたいよね。
「ツーショット写真、撮ってあげるよ?」
カメラどこ?今から準備しておかないと、急に来られたら焦るもんね。
「いや、そうじゃなくて……あっ!石本選手っ!」
コウくんは何か言いかけたけれど、お目当ての選手が来たのだろう。
大きな声で一人の選手を呼んだ。