ミルクの追憶
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名前を忘れた少女が洋館に住む謎の少年と出会ってから、数日が経過していた。
「ねぇ、どうしてここは夜も昼も真っ暗なの?」
「さぁ、ぼくにはわからない」
少年は何を尋ねても「わからない」としか言わない。
少女はもどかしくてたまらなかった。
「キミの好きなものをたくさん用意したんだ」
少年は少女に笑いかけ、隣の部屋に案内する。
部屋の中は種々雑多なものであふれかえっていた。
「これは、なに?」
「ここにあるものはね、ぜんぶキミの好きなものなんだよ」
「どうして、わたしの好きなものを知ってるの?」
少女は不思議に思いながら、近くにあった赤いリボンを手にとった。見覚えがある。
「それ、キミはいつも髪につけていた」
「じゃあ、これは?」
「それは、キミのお気に入りの本」
「これも?」
「それは、キミの使っていたマグカップ」
“せめてもの償いなんだ”
少年は少女に聴こえないくらいにか細く掠れた声でそういった。