ミルクの追憶
「思い出したの?」
「え……」
「今、二コラって」
「二コラ……誰なの?……わたし、あなたは二コラなの?」
「そうだよ、クロエ」
「クロ、エ……?」
「キミがぼくの名前を思い出したら、教えてもいいことになってたんだ」
「二、コラ……ク、ロエ……」
少女―クロエは必死で彼を思い出そうと顔を歪めた。
けれど、そうすればするほど、頭が痛くなる。
「……ぃや、いやよ」
「クロエ?」
「いやよ、いやぁぁぁああ」
クロエの頭の中に激しいヴァイオリンの音が響く。
耳をつんざくような音色は耳を塞いでも余計にこもるばかりで消えてくれない。
ヴィヴァルディ――冬。
同じフレーズが何度も何度も頭の中で繰り返されて頭が変になりそうだ。
「いやぁぁぁああ、とめて、とめて、」
「クロエ、どうしたんだクロエ!」
頭が割れそうになって瞳からは血が溢れだす。
その赤はミルク色にまじって歪な模様を造りだす。
少女は気を失った。