ミルクの追憶
「だれだ……」
「これはこれは失礼。わたしの名前はメフィストフェレス。光に憎まれ、虚偽を愛する正真正銘の悪魔でございます」
「あく、ま……?」
とうとう頭がどうにかしてしまったんだろうか。
二コラは困惑する頭で自らを悪魔だと名乗る存在に目をくれた。
彼は全身真っ赤な色で身を包み、にやりと狡猾にゆがめられた口の端からは真っ黒い歯がのぞいていた。
「さよう。どうするんだ、おまえ。彼女はおまえのせいで地獄生きだぞ」
「どうしてさ!……クロエは地獄へ行くようなことなんか、」
「おいおい、自殺しただろう」
メフィストは肩をすくめて飄々と首を振る。
「あれは……」
「いいじゃないか。地獄は愉しいぞ?俺の仲間が彼女を思う存分たのしませるだろうよ」
「……そんな、」
「おい、嫌なのか?」
「そんなの、あんまりだ」
二コラはその場にくずおれて、悔しさと哀しみに頬を濡らした。
握りしめた拳で床を叩き、彼女を死へ追いやった自分を憎む。