ミルクの追憶
「おまえを救ってやる方法が、ないでもないんだがな」
そんな二コラを横目にこうなるのをわかっっていたとばかり。
メフィストは愉快さを押し込めて、務めて同情的に聞こえるように言った。
「え……」
藁をも縋る思いで顔をあげた二コラ。
その泣き顔を見て一層いやらしく微笑んだメフィストは、彼に顔を近づけて言った。
「おまえの魂さ」
「たま、しい……」
「そうさ。そいつをくれるって言うんなら、彼女を死なせずにいてやろう」
「……本当なのか?!」
絶望の淵の一縷の希望にかげっていた顔を輝かせて二コラは食い下がる。
メフィストはうっとうしげに片手を振り、本当だと念をおした。
「その代り、おまえは死ぬことになる」
「いいよ、それでクロエが助かるなら」
「――いいだろう!ダン!決まりだ!」
メフィストは上機嫌になぜか英語でそう言って、手を鳴らす。
「潔いな、気に入った。おまえには特典をやろう」
「特典?」
「彼女ともう一度、会わせてやろう」
「ほ、本当に……?」
クロエの命が助かるばかりでなくもう一度彼女に会える。
降ってわいてきたような幸運に、二コラの胸は高鳴った。
「その変わり、彼女が思い出すまで素性は一切明かさないこと」
「……わかった」
「期限は、そうだな……」
それまで饒舌だったメフィストは、うーむ、と何かを考えるように顎に手をやったあと、面白そうにこういった。
「期限は、彼女がパンドラの箱を開けるまでだ」