ミルクの追憶
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「あぁ、なんて幸せなのかしら」
クロエは感嘆の溜息をもらす。
記憶こそないけれど、愛していると自覚できる存在――二コラが傍にいて。
大好きなホットミルクを飲みながら、チョコレートを食べて、シェークスピアを読みふける。
「幸せ?」
「えぇ、とっても」
「それはよかった」
二コラは微笑んで彼女の膝に頭を寄せる。
至福のひととき、と呼ぶにふさわしい時間。
記憶などなくとも、自分が何者なのかすらわからずとも、クロエは気にしていなかった。
太陽があがらずとも、大きな満月がある。
部屋の中が寒くても、二コラの温かな体温がある。
「このままずっと、時間が止まってしまえばいいのに」
二コラが眠気にうつらうつらしながらいった。
「そうすれば、永遠にキミと一緒にいられる」
「ずっと一緒よ、二コラ」
クロエが笑ったのに反して、二コラは眉をゆがめた。
「ねぇ、この大きな箱はなんなの?」
「――だめだ!それに触っちゃ!」
アンティークのコバルトブルーの宝箱。
それに手をかけようとクロエが立ち上がろうとしたとき、二コラが大声でさけんだ。