ミルクの追憶
「ここ、どこ?……わたし、だれ?」
誰ともなく口にしたそれは吐いた息と同じように空気に吸い込まれて消えた。
呆然と立ち尽くしていると少女の耳に激しい衝撃が走る。
「この曲……」
悲痛なヴァイオリンの音色。
まるで何かを呼び覚ますような激しい旋律へと変わる。
――ヴィヴァルディ〈冬〉
自分の名前は覚えていなくとも、少女はその曲の名を知っていた。
どうやら洋館から聴こえてくるらしいその音色は痛いくらいに大きくなり、少女の心を震わせる。