ミルクの追憶
「あぁ、キミか」
少年は顎をその愛しいヴァイオリンからはずして呟いた。
「どうして、泣いてるの」
少女は泣いていた。
ただ、胸の中をぐちゃぐちゃにかき回されて揺さぶられ、振り回されたあとのような疲労感があった。
侵略者は風のように訪れて彼女の心を弄んだ。
「あなたは誰で、わたしは誰なの?」
「やっぱり覚えていないんだね」
普通であれば理解しがたい少女の問いにも驚くことなく少年は哀しげに答えた。
「だけど、ぼくが誰でキミがだれなのか、ぼくの口からは言えないんだ」