恋の飛沫
「とにかく、さっさと着替えなよ。風邪引くよ」

 はい、と渡されたシャツを夏帆が片手で受け取ると、近藤はくるりと背を向ける。

 普通はここで立ち去るべきだろ、とか考えるところだが、今の夏帆は、いろいろショッキングなことが続いて、頭が働かない。
 近藤が気を利かせて背を向けてくれたので、夏帆はそそくさとシャツを脱いだ。

 本当に気を利かすなら、やはりこの場は立ち去るべきなのだが。

 近藤のシャツに腕を通そうとし、再びはた、と思い留まる。
 シャツだけ着替えても、スカートもずぶ濡れだ。

 スカートのほうが生地が分厚いため、乾くのは時間がかかろう。
 折角借りたシャツまでも濡れてしまったら、またスケスケになってしまうではないか。

「あ、あの。私、スカートも濡れてるし、先輩のシャツまで濡らしてしまいそうで・・・・・・」

 おずおずと言うと、近藤は背を向けたまま、ああ、と呟いた。
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