唇荒れた【短編】
唇荒れた
とりあえず、派手なキスはやめてほしい。
そう言えば至極不思議そうな顔をして首を傾ける彼氏に、もう一度簡単な言葉で言った。
「だーかーら、舌ねじ込んだり口舐めたりはしばらく禁止」
唇の前で指でばつを作ると、彼氏は真っ青になってその後直ぐに赤くなった。
そして、整った眉毛がじりじりと力強く上がっていく。
たくさんキスした後のことだ。
ソファーで二人、和んでいるとまた顔をつかんで唇を合わせようとした時に言った言葉だった。今は、冬。北風がいやがらせのように肌を荒らしていく。唇も然りだ。二重攻撃として、彼氏が唇へも愛を向けるものだからカサカサに枯れきっている。
リップクリームを塗ってもすぐ落ちる。
効能うんぬんの前に拭われているのだから。
なのに、なんでそんな怒った顔してるんだろう。
「ふーーーん、俺とキスしたくなくなった?」
ふわふわしたいつもの声と違いブリザード。
誤解してるって気付いたのは少しの間が静まり返ってすぐだった。
「違う、そうじゃなくて!!」
やばい、やばい、やばい。
この感覚は彼とのシグナル____危険信号。
「それか満足できなくなった?」
手が頬に伸びてきた、と思えば。
また、キス。でも。
「___っ」
噛み付かれた。そのあと強く吸って____まるでキスマークをつけるようで。
「新鮮だろ?」
独占欲の固まりに苦笑いしか返せなかった。
この代償に腫れぼったくなった唇と潤いを根こそぎとられた。
野獣のような本能に応対することができない白兎は、黙ってキスを受け入れされるがままに身を委ねた。