愛のガチ契約
昇降口。

あの眼鏡は執事の蓮見に一言耳打ちすると再び校舎に消えた。


「なんだ?あの金持ち眼鏡」

優希は細い目で飯田の後ろ姿を見る。

「優希。言葉を慎んで。
飯田様の執事さんを前にして」

鞠はそっけなく優希に注意を入れる。



「…すんません、執事さん」

優希は頭をかきながら少し頭を下げる。


「いいえ。
主人は先に皆様を車にと。
山口様、麹町様、鈴木様。
こちらへどうぞ」

白髪の紳士が昇降口前で真っ黒な傘を美しく広げる。



「足元にお気をつけくださいませ。」

ぽつぽつと雨が天から降る中、少しでも飴子たちを濡らすまいと昇降口と車の入り口までをエスコートする。


「お、わざわざわりぃなぁー」

そう言って優希は鞄を肩で背負うと少し背中を曲げて傘に入り黒ベンツに入っていく。


「恐れ入りますわ、蓮見様」

「いえ、これが私の務めですので。」

鞠は少し微笑みながら車内に入る。



「では鈴木様。こちらへ。」

蓮見は飴子に紳士的な微笑みを送る。



「で、でも私…制服こんな濡れてるし…」

飴子は申し訳ない顔をする。

(…こんな高級な車でずぶ濡れで入れるわけないじゃない)

そわそわしながら飴子は蓮見を見る。


蓮見は首を少し傾げて微笑む。

(こんな状態のあたしはエスコートなんてされるべきじゃないんじゃ…)


「あたし…こんな格好じゃ車の中、入るの申し訳ないです!」






バサッ


「へ…?」

飴子はいきなりの音に後ろを見た。
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