俺と初めての恋愛をしよう
医務室のドアを乱暴に開け、野獣と化した後藤が入ってきた。

「ど、どうしたの?」

静かな医務室にいる植草は、突然の大きな物音にびっくりした。

「お、俺は、何でこんなにも了見が狭いんだ。う~イライラする」

ポケットに手を入れ、医務室の中を大股で歩きまわる。

「どうせ林さんのことでしょ? 勝手にして」
「植草が余計なことをしたからだ、男が寄ってきたぞ、どうしてくれるんだ」

仁王立ちで指をさす。

「いいことじゃない。自分がおっさんだから自信がないの?」
「おっさんって言うな!」
「あのね、ちょっと落ち着いて座りなさい」

椅子を差し出す。

「いい? 林さんはね、今まで他人と交わることをしてこなかったの。コミュニケーション能力が乏しいの。年齢だけ重ねてね。それに、素直さと無防備さを兼ね備えてしまっている。ましてや後藤君との恋愛は初恋よ? 恋愛に関してだって、中学生の頃から成長をしていないの。それは分かっているわよね?」
「分かっている」

椅子に座り腕をくんでむっすりとしている。

「つらい経験上、他人を信じない所があるけれど、根本は素直で健気な子よ?」
「分かっている」
「大人のあなたが率先して人と交わる場を与えないでどうするの? 同僚でしょ? いいじゃない。 林さんは言葉一つにしてもとても敏感よ? 言葉一つで発作が起きるくらいね。その時に後藤君が支えるのよ。庇護ばかりしていてはダメ」
「あ~もう!」
「林さん、これからもっとこういうことが起こるわよ? 皆、心の底では話したかったんじゃないかしら? 今どきいない、汚れを知らないピュアな女性なんだから、きっとモテるはず。後藤君に出来ることは、そうやってやきもきすることよ。前の林さんに戻ってもいいの? ……全部作り変えちゃうわよ、いいのね?」

言葉尻は脅すような低い声で言った。

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