俺と初めての恋愛をしよう

「わかったよ」
「それでどうだったの？　林さん。皆と会話をしていたんでしょ？」
「ああ、楽しそうだった」
「いいわ、その調子よ。会話をしないと言葉を忘れちゃうわよ」
「今日子、顔を赤くして、それで、あいつらが顔を近づけて……ああ～～くそ」
「後藤くんも意外と一途だったのね。長いこと離れていて、やっと自分のところにやって来た。嬉しくて仕方がない気持ちも理解できるわ。でも、そこまで独占欲と嫉妬心が強いと林さん可哀そうよ？　私だったらケンカしてとっとと別れるわ」
「ほっとけ」
「長い冬眠生活から春がきたんだから、大目に見てあげるわ。でもほどほどにね」
「わかった」
「そう簡単に人は変われないわ。林さんだって楽しそうにしていても、内心は怯えているはず。それを一生懸命に克服しようとしているのだから、応援してあげなくちゃ」

恋愛事で諭されるとは思ってもみなかったが、今日子の状態を把握している植草が一番の理解者だ。
後藤も素直に頷く。
後藤は植草と話をしたことで、いくらか気分が落ち着き、部署に戻った。
戻って最初に確認したのは、今日子だ。
もうすでに、周りに人はいなくいつものように黙々と仕事をしていた。
後藤が、胸をなでおろしたのは言うまでもない。
しかし、安心したのは、その時だけで、今日子に興味があったのは三人だけではなかった。今日子が処理をするまでもない案件も、何かにつけ用事を今日子の側に寄って来た。
丁寧な今日子は、いちいち立って対応し、相手との顔が近くなる。後藤のイライラは頂点に達し、仕事が残っているのにも関わらず、マンションに帰ってしまった。
今日子がいるのは当然で、メールで駐車場に来るようにとあった。
顔を見れば機嫌が悪いのは直ぐに分かった。
どうしたらいいのか分からない今日子は、後藤の傍から離れないことが一番いいはずだと察し、傍に寄り添った。