俺と初めての恋愛をしよう
「部長、コーヒーはいかがですか?」
 「ん」

食器などの生活に必要なものは大体揃っている。
まだ不自由な所もあるが、全く何も出来ないと言ったところではない。
機嫌が直らない後藤に、今日子は普通に接する。
コーヒーを落としてカップにそそぐと、ソファに座って新聞を読んでいる後藤に持って行った。
後藤は機嫌が悪くとも、今日子が傍に居れば、少しは満足なのだ。
怖いことはない。自分の為、自分のことを大事に思ってくれているがゆえに、行き過ぎてしまっているだけなのだ。
それを今日子は分かっているから怖いことはない。

「はい、どうぞ」
「ん」

今日子は、植草にアドバイスをもらっていた。

「機嫌?」
「ええ、機嫌が悪くなると、中々治らなくて、どうしていいか悩んでしまいます」
「やきもちでね?」
「多分……いつもと変わらず接しているだけなのですが、部長にはそれがお気に召さないようで」
「ずっとくっついていればいいのよ、そして甘える、スキンシップを取る」
「え……」

今日子には少し恥ずかしく、得意でもない分野だ。

「あなたが誰かにとられやしないか、おどおどしているのよ、臆病者ね」
「私には、部長だけです」
「分かっているわ。でも、林さんが綺麗になると、嬉しい反面、心配でもあるのよ」
「どうしたらわかってもらえるでしょう」
「くっついていなさい。言葉に出すのは恥ずかしいでしょうから。まったく子供なんだから、おっさん」

植草にこう言われていた。
今日はイメージチェンジ初日で、確かにいつも以上に男性社員と接触があった。もちろん仕事でだ。だが、後藤は気に入らない。
今日子は、一口コーヒーを飲むと、テーブルにカップを置いて、後藤の肩に頭を乗せた。

「どうした?」
「少し、こうさせてください。とても安心するので」

今日子が寄りかかると、後藤は新聞を畳んで、今日子の肩を抱く。

「ありがとうございます」

後藤は、寄りかかった今日子のこめかみにキスをする。

「疲れたのか?」
「そうかもしれません」

< 102 / 190 >

この作品をシェア

pagetop