俺と初めての恋愛をしよう
後藤の声は優しくなっていた。
今日子は嘘でもなく、つかれていた。人疲れだ。一人で仕事をこなし、業務上必要なこと以外の接触は避けてきた。
今日子と人との間にあった壁が壊れ、結界を作っていた今日子の世界に、人が入り込んできたのだ。自分の性格、どのように見られているのだろうか、いい人だと思われたい、嫌なやつだと思われたくない。そんなことばかりを考えて、会話で言葉を選ぶのが大変だった。

「人と会話をすることが、こんなに疲れることだとは知りませんでした」
「今日子?」

今日子はぼうっと一点を見つめ、話す。本当に疲れているようだ。

「楽しかった。確かに楽しかったです。いろいろな話を聞けて楽しかったんです。でも、私のどこかに人を怖がる部分が抜けていないようで、嫌われないように言葉を探して……」
「今日子、皆がみんないい人じゃない。人には相性というものがある。今日子には今日子にあった友人、それがいつかできる時がくる。会社は友達を作りに来るところじゃない。誰しもがライバルで、上辺で付き合っている。だから、今日子が何か嫌なことを言ってしまったとしても、それもまた業務上必要なことなんだ」
「部長」
「言葉を発することに臆病になるな。一人になりたいときには無理して付き合う必要はない。断ってしまったことを気にするのは言った本人だけで、相手はそこまで深く考えてない。断り方を考えればいいんだ。昼を誘われて断りたいときには、昼に用事があって外に出なければいけない、また明日食べましょうと言ってもいい。言い訳なんていくらでも出来る。今日子はまじめすぎるんだ」

後藤の言うことを頷いて聞いていた。


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