俺と初めての恋愛をしよう
「はあ~、重かった」

一休みしたいところだが、ふとスマートフォンを見ると、後藤からメッセージが送られてきていた。
やはり、今日子の読み通り、定時で帰ってくるとのことだった。
分かったと返信をすると、エプロンをかけ、食事の支度を始めた。
一人暮らしが長かった今日子は、自分の都合のいいように時間を回していた。
相手がいると、それに合わせなければならないのが大変だ。
一息つく間もなく、調理を始め、足も棒のようになる。
時間はどんどん過ぎて、あっという間に後藤が帰ってくる時間となった。
ふとキッチンの窓に映る自分を見る。
外はビル群の灯りが綺麗な夜景となっているのに、自分はどうだろうか。

「疲れてる顔しているかしら……」

鏡で顔を見るように、色々な角度にしてみる。
自分の都合のいいように時間を使ってきた今日子には、骨の折れる日だったようだ。
疲れた顔をしていた。
後藤は今日子の変化に敏感なだけに、顔を見ればすぐに気づくだろう。

「髪だけでもとかして、整えた方がいいわね」

後藤が帰ってくるのを待てばいいだけにしたあと、髪の毛を整えて、少しメイクを直す。
疲れは隠せないものの、やつれた感は取れた。
鏡で自分の顔をじっと見ていると、インターフォンが鳴った。

「あ、部長だわ」

インターフォンで応対をして、家で待つと、5分ほどで今度は玄関のチャイムが鳴った。

「はい」

鍵を開けると、そこには、朝、出て行った時と変わらぬ様子の後藤が立っていた。

「おかえりなさい」
「ただいま」

後藤は玄関に入るなり、今日子にキスをして、抱きしめる。

「部長?」
「疲れが吹き飛ぶ」
「ご飯が出来ていますよ」
「そうだな、良い匂いがしている」

後藤の着替えを手伝い、食事の用意を整えると、二人そろっての夕食をとる。

「うまそうだ、いただきます」
「どうぞ」

簡単で短時間で出来るハンバーグが食卓に並んでいた。
時間がないなりにも、サラダとスープも用意してある。

「不動産屋は?」
「あ、はい。今月一杯で解約の手続きをしてきました」
「業者は俺が頼んだ。お任せパックとかいうやつだ。今日子は立ち合いをすればいい」
「あ、でも、見積もりとかが必要なのでは?」
「まどろこっしい。そんなものは抜きだ。口で説明すればいいだけだ、それでわかるだろう? プロなんだから」
「……」

< 110 / 190 >

この作品をシェア

pagetop