俺と初めての恋愛をしよう
「起きました?」

 カーテンを開け医務室常勤の植草が顔を見せた。

 「……はい。今何時ですか?」
 「今、昼休憩ね」
 「そ、そんなに寝ていたんですか!?あの、此処へは誰が……」

 慌てて、起き上がりベッドから出ようとすると、植草が止めた。

 「後藤さんよ? 彼も相当焦っていたわ。気を失っていたの。もう少し安静にしていて?えっと、林さんね。ちょっと問診をいくつかしたいの。いいかしら?」

植草はカルテを持って今日子に質問をした。
何度も過呼吸の発作があったが、発作の後気を失ったのは初めてだ。

 「……はい」

今日子はゆっくりとベッドの背にもたれた。

 「過呼吸はいつから?」 
 「中学時代からです。大学で一、二度なった程度で久しぶりでした」

植草は、今日子の話すことを、カルテに書きこむ。

 「随分と早くから症状が出ているのね。知っていると思うけど、過呼吸は過剰なストレスから引き起こされるの。過呼吸が出る出来事は決まっているの?今回の発作は後藤さんが原因?」
 「……うっ、えっ、人が、ひっく、男性が、ひっく、綺麗な人が怖いんです。私は……うっく、み、醜い……それに、急、急に部長が、無理に誘って、うっ、気持ちが付いていかなくて。人には対応できないんです、それなのに……」

 優しい問いかけに、せきをきったように涙があふれ、嗚咽でうまくしゃべれない。
今日子は、泣きながら、いい大人が泣きじゃくるなんて。と思うほどだった。
 植草が背中をさする。

 「そうね、無理やりは良くなかったわね。それと、視力、悪くないわね。何故、メガネを?」
 「……」
 「林さん、私は医者よ?話してくれたことは口外しない。約束するわ」
 「……顔だけは隠して生活できません。この醜い顔を隠すにはメガネとこの前髪しかなかったんです。このようにしてからは、少し気持ちも落ち着きました」

 優しく背中を摩る植草の手が落ち着きを取り戻す手助けをしてくれていた。

 「そう。今日は休みなさい。もう少し休んでから帰るといいわ」
 「はい」

まじめすぎる今日子は、途中退社など考えられなかったが、今は、すぐにでも帰りたかった。植草に言われ、二つ返事をする。

 「林さん、またここに来られる?」

 カルテに記入しながら訪ねる。

 「通院しないといけないくらいなんでしょうか?」
 「う~ん、過呼吸はすぐには治らないの。ましてや、気を失しなってしまうところまで行くとちょっと。でも根本を取り除かないと意味がないのよ。ここも割と暇だし、お話にくる程度の気持ちで来てほしいわ。いい?」

 「……わかりました」

今日子の返事に、植草は笑顔で返す。

 「もう少し横になって、休みなさい。ね?」

今日子は、頷いた。
 植草は、カーテンを閉めて医師は今日子のもとを離れた。
 そんなに大変なことなのか?確かにこんなに苦しいのはもう嫌だ。治せるものなら治したい。病院に行くわけではないし、治療費も掛からない。空いた時間で来るのならいいかもしれない。ふとそんなことを考えた。
 昨夜、全く寝られなかったからか、今日子は、横になるとすぐにまた眠くなり目を閉じた。

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