俺と初めての恋愛をしよう
振り回される上司
 次の日、新宿の東口改札で待ち合わせをしていた。上司を待たせるのも悪い気がして、今日子は10分程早く来て待っていた。真夏の太陽がじりじりと肌に突き刺さる。
来るのを待ちながら、周りの女性達のファッションを見る。みんなおしゃれだ。 
今日子は、唯一持っている黒の胸元がVネックになっている膝丈のノースリーブのフレアワンピースを着た。いつもは身体をさらすのが嫌でずっと長袖を着ていたが、初めてのデートに精一杯のおしゃれをした。後藤に恥をかかせたくない乙女心だ。髪も下し、前髪も少しだけ横に流した。身支度に時間をかけるなど、初めてのことだった。
道行く女性を観察していると、強く腕を引かれびっくりした。

「部長。びっくりしました」
「ちょっと来い」

今日子の腕を引いたのは、後藤だった。
ひっぱられる形で地下街へと階段を下りる。少し死角になっているところで足を止める。

「どうしたんですか?」
「今日子、カーディガンとか羽織るものは持って来ていないのか?」
「カーディガンは持ってきました」
 
 バッグのほかに小さな紙袋から取り出して見せた。

「ずっと着ていろ。脱ぐんじゃないぞ? わかったな?」

 差し出したカーディガンを取り、今日子に羽織らせた。

「は、はい……」

 後藤の言うことの意味がわからなくて、首をかしげたが、言う通りにした。

「じゃ、行こう」

 二人は、手を繋ぎ目的の方向へと歩き出した。
 後藤の私服姿は初めて見るが、カジュアルな服装もまた素敵だ。デッキシューズにボタンダウンのシャツ、素材のいいチノパンを着ていた。今日何か洋服を買ってみようかと、久しぶりに購買意欲が湧く。
 目的のデパートの食器売り場に着くと、二人分のお椀、お茶碗、湯呑み、コーヒーカップなど、とにかく必要な食器を全て揃えた。今日子は計算した金額に少しびっくりしていたが、後藤は構うことなく購入した。食器は配送を頼み、寝具売り場へ行く。後藤は少しでも傍を離れるとすぐさま自分の元に呼び寄せる。

「男の傍に寄るな。俺から離れるな、いいか?」

 店員でも男性ならば傍によるなと言い、腰に腕を回し、体を密着させる。
後藤は、独占欲がかなり強い。

「はい」
「パジャマを買おう。今日子の」
「何で、ですか?」
「俺の家にこれから毎週金曜日は泊りにくるから」
「え!?と、泊りって」
「そ、泊まるの。昨日決めた」

今日子は、恥ずかしさに顔を赤らめる。動揺を隠せないでいると、ラックに沢山陳列している中から後藤がパジャマを選びだした。
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