俺と初めての恋愛をしよう
大通りでタクシーを止める。後藤が自宅の住所を運転手に言った。
タクシーの中でも会話はなく、気まずい雰囲気だった。それでも後藤は、今日子の手を握ったまま離さない。
マンションに着き、タクシーにお金を支払うと、そのまま近くのコンビニへ入り、カゴにどんどんお弁当やおにぎり、パンを入れていく。黙ってついてきたが、まだ機嫌は直らない。レジで会計を済ませ。またマンションへと向かう。
エレベーター内でも全くしゃべらず、今日子は何か話しかけようにも、怒られそうで声を掛けられないでいた。
後藤の自宅のある階につき、家のドアの鍵を開け、今日子を入れると、買い物をしてきた袋を放り投げ、キスをした。むさぼるようなキスに思考が奪われていく。
長く激しいキスの後、絞り出すような声で言った。

「柴野の奴、よくも触りやがったな。許さねえ」
「部長。私、気にしていませんから」
「……ちょっと来い」

手を引かれてリビングへと入り、ソファに座らせられる。
室内はむせるような暑さで、後藤はリモコンでエアコンを入れる。

「お前は無防備すぎる。それが返って男を煽るんだ。柴野は気をつけろ。泣かした女の数は半端じゃない。いいな、分かったか?……いや、柴野だけじゃない、他の男全部だ」
「はい。分かりました」

今日子の返事を聞き安心したのか、優しく抱きしめ、またキスをした。
今日子は後藤に素直に従い返事をする。それは窮屈なことではないのだ。
何とかようやく落ち着き、ソファで遅い昼食を食べ始める。

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