俺と初めての恋愛をしよう
「ごめん、こんなご飯で」

急に反省をする後藤だ。そんな面もいいと、今日子は再発見する。

「いいえ、私、本当は柴野さんのところへ寄るより、此処へ早く帰りたかったから、いいんです」
「まいったな、本当に帰したくなくなる」
「今日帰ると、月曜日まで会えませんね。昨日もとても寂しかったです。初めてです、人と別れが寂しいのは」

今日子からこんな言葉がでるとは、考えてもみなかったことだ。そのことに今日子は気が付いていない。後藤は、らしくなく感動している。

「明日も明後日も毎日会えばいい」
「ふふ、それでは部長が疲れます。週末はゆっくりと休んで下さい。毎日残業で大変ですし、私はたまに誘って頂ければ結構ですから」
「お前、俺がどれだけ抑えているか分かってないな。会社でも、隣に座らせたいくらいだ」
「そ、それは困ります」

有言実行の後藤のことだ、やりかねないと、今日子は、焦る。

「冗談に決まっているだろ。それくらい離れていたくないってこと。だから遠慮はするな。もっと自分の要求をだしていいんだぞ? まあ、おっさんだから、毎週何処かには遊びに連れて行ってやれないけどな」

 植草に言われたことを凄く根に持っている。これは大変だ。後藤のちょっと膨れた顔が可愛らしかった。

「チュ」

 後藤がびっくりした顔で私を見る。今日子もまた自分のした行動にびっくりして、両手で口を覆った。
 後藤の頬にキスをしたからだ。
 後藤の傍でどんどん今日子は変わって行く。それも急速に。それは、外の世界へと自分をさらけ出すことだ。そのことに対応しきれるのか、まだ不安があるが、気持ちの赴くままに行動してみるのもいいことなのかも知れない。
 俺が一生懸命我慢をしているのにお前が煽ってどうする、と言って終わらないキスが返ってきた。



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