俺と初めての恋愛をしよう
今日子の目は真剣そのもので、整形手術をすることに迷いはなかった。

「顔は、Eラインと呼ばれるラインをきれいに、腫れぼったいまぶたをすっきりと、鼻は鼻筋の通った形で。唇は少し薄く。歯の矯正は時間が掛かるので審美歯科を。身体は、……手術できるところは全て」

植草からみて、何処も直すところがない今日子の顔。後藤を好きになったことで、自分の見る目に変化があったのではないかと期待していたが、それはなかった様だ。
今日子には、まだ自分が醜く見えているらしい。

「全身じゃない。それじゃ林さんは何処にいってしまうの?」
「この私はいらないんです。先生、部長はどう言うと思いますか?」
「どおって……」

植草は、医者として失格だ。今日子の問いに言葉を詰まらせてしまったからだ。すぐに帰すことも出来ずに、言葉を詰まらせる。植草は、咄嗟にパソコンの画面を顔のパーツが自由に選択できるソフトを開く。正月に遊ぶ、福笑いのようなものだ。

「林さん、今の自分の顔に近いパーツを、この何も入っていない顔に貼り付けてくれる?」
「は、はい」

植草は、自分の席を今日子に譲り、マウスを渡す。
目、鼻、口と今日子は、自分の顔を選択して貼り付けていく。後ろからその様子を見ていた植草は、驚きを隠せない。
自分はいらないと何の躊躇もなくこの大人しい今日子が言うなんて全く考えられなかった。整形が悪いわけではない。しかし、どんな過去があったのか、もう洗脳に近い。腫れぼったくもない目を腫れぼったいといい、鼻は顔の大きさに見合って小さく、筋の通った綺麗な鼻の形をしている。歯並びだって、少し八重歯が重なっている程度で、まったく問題はない。

「先生」

貼り付けが終わった今日子は、植草に見せる。

「林さんの顔はこれね」
「そうです」

見たくもないのか、今日子は、視線をずらした。植草は、ファイルに保存して、すぐにその顔を消す。
これを解くことは難しいのではないか。植草は、後藤と早く相談しなければならないと思った。

「ねえ、林さん。整形が悪いとは言わないわ。手術をする前に、どうしてそう思うようになったのか教えてくれる?」

植草は、そう見えるようになったきっかけを探ることにした。
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