俺と初めての恋愛をしよう
髪をブラッシングしながらスタイルを相談する。傍には植草が付いている。

「長さはどれくらいにします? 今は丁度背中の真ん中あたりまでありますけど」
「林さん、後藤さんは長いのが好きかしら?」

スタイルを変えない今日子は、自分の変化を知らない。鏡越しに植草にアドバイスを求めた。

「えっと、知りません。どうしたらいいでしょう」
「うーん。あれは長いのが好みだな。長さはあまり変えないで。あとはお任せする、どうとでもして。あ、パーマはダメよ」
「はい。綺麗な髪にパーマは勿体ないですからね。この髪をいかしましょう」

スタイリストは髪にブラシをしながらヘアスタイルを考えているようだ。

「じゃ、お願いね。……林さん、私は向こうで座って雑誌でも読んで待っているから、何か用事があったら呼ぶのよ?」
「わかりました」
「それでは、シャンプーをしましょう。どうぞこちらへ」

今日子をシャンプー台へと見送ったあと、担当が男だったにも関わらず、発作もなく、俯くこともなくいてくれたので植草は安心する。
植草は一つハードルを超え、安心した。植草も不安だったのだ。今日子だけではなく、植草のバッグにも発作用の袋が入っている。
美容院のソファに座り、出された紅茶を飲みながら雑誌を読む。すると携帯が鳴り、ディスプレイに後藤の名が表示された。

「もしもし?」
『俺だ。どうだ、今日子は』
「今、美容院よ。シャンプーが終わって、カットに入っているとこ」
『発作はないのか?』
「大丈夫、とても楽しそうよ?」
『美容師、男じゃないだろうな』

やはりうるさいことを言ってきた。植草は、お仕置きのつもりで報告する。


「お・と・こ・よ!」

それだけ言って、一方的に電話を切った。ついでに今日一日うるさそうだからと、電源も切った。

「全くうるさいんだから。あの人、あんな人だった? 林さんにも後で電源を切っておくように言わなくちゃね」

そうでもしないと、今日を楽しめそうになかった。
二時間ほどすると、仕上がったのか担当に植草が呼ばれた。
今日子の傍に行くと、そこには見間違えるほど可愛らしくなった今日子が恥ずかしそうに座っていた。
かけていた伊達のメガネは外されていて、背筋を伸ばして、きれいに座っている今日子がいた。

「林さん、なんて綺麗なの。とてもすてきよ」

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