俺と初めての恋愛をしよう
今日子の髪型はおかっぱ頭の日本人形そのものだった。裾も前髪もぱっつんと切り揃えているだけであったのだ。

「重い前髪を軽くして、顔のラインに沿ってシャギーを入れて軽くしました。どうですか?」
「うん。とっても素敵」
「これからお出かけの予定があるとか、最後にセットをさせていただきます」
「ありがとう」

他人と会話も出来なかった今日子が、美容師に今日の予定を話したようだ。
それからしばらくして、髪を軽くカールをした今日子が来た。

「先生、お待たせしました」

読んでいた雑誌を置き、今日子を見る。

「ますます綺麗になって、林さん!」

植草は、オーバーでもなく、本当に驚いている。

「本当ですか? 私なんか……」

卑下しそうになる今日子を見て、美容師に同意を求める。

「あら、凄くきれいよね?」
「はい、とっても。綺麗な髪ではさみを入れる手がちょっと震えましたよ。自信を持ってください」
「ありがとうございます」

今日子にしては目が飛び出るような金額を支払い、店を出た。

「あの美容師さん、イケメンでしょ。半年先まで予約が取れないのよ?」
「確かに素敵でしたね」
「私はもう結婚してるけどね。でも、美容師は危険人物よ。イケメンで腕がいいときたら、女性は放って置かないでしょうし。ここに来るときはおしゃれをして、来るのよ? やっぱりいい男に可愛く映りたいじゃない? これが私の美容法」

そう言う植草は医務室にいる毅然とした態度とは違い、かわいらしい女性になっている。
やっぱり綺麗でいるのは、異性の力は重要なようだ。
今日子はふと、後藤の顔が思い浮かんだ。

「先生? 部長もとてもイケメンな顔だと思いますが、また違うんですか?」
「うーん、高校の時から見ていて、確かに良い顔だと思うけど、いまいち好みじゃなくて萌えないのよね。おっさんだし、やっぱり見るには若くないと!!」

植草は握り拳を作り、力説する。
そうか、後藤には若さが足らないのか。これは、聞かなかったことにして封印することにしよう。と今日子は胸にしまった。


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