俺と初めての恋愛をしよう
「しようがないのよ。6年も片思いで、やっと自分のものに出来たの。もう誰にも止められないわ」
「そうなの!? 今時、そんな純情なおっさんが居たの?」

 中島までおっさんと言い出す始末だ。後藤がいたら、それこそ立ち直れないだろう。

「告白しようとしたら、海外へ転勤になっちゃってね」
「そう……林さん、凄く大切にしてくれるわよ。幸せね」
「はい」

 悪口から、恋愛話、女性の話題は尽きない。
 女性三人でのランチは予定していた時間を遥かに超えてしまっていた。
レストランを出ると、デパートに向かう。中島と植草で今日子に次から次へと洋服を試着させる。

「色が白いから何でも似合うわね。スタイルもいいし、服に着られてないのもいいわ。すごい。まあ、これもいいわ。……林さん好みある?」
「あの、部長はあまり胸元が開いたのとか肌を出すのは好きじゃないみたいです」
「そんなことだろうと思ったわよ、あの野獣」

 植草が腕組みをしながら鼻息荒くそう言う。

「林さんはどうなの?」
「私は、洋服はほとんど通販で、主に仕事着しか買ったことがないので……服を買いに行くときはとても勇気がいって、正直、何が自分に似合うのか分からないんです。似合っていますか? 私」

 試着室から着ている洋服を見る。

「ええ、とても似合っているわ」
「じゃあ、部長の好みじゃなく、自分に似合っているものを今日は買います」

 今日子は、試着室のカーテンを閉め、次の洋服の着替えに入った。

「ちょっと、あなたから聞いてはいたけど、こんなことってある? あの子の人生を過去に戻ってやり直してあげたいくらいよ……悲しすぎるわ。あの素直で純真な話し方。精神は大人でも、心は中学生から止まっているのね。こうやって女友達とショッピングするのも初めてなんでしょ? 涙がでちゃうわ」

 中島は目に涙をためた。

「そうよ、だから彼女、とんでもないことを計画中なのよ。それを私たちが全力でいい方向にいくようにするの。協力をお願い」
「分かってるわ、心が美しいと、顔も美しいのね、彼女に教えてもらったようだわ。そんな彼女を違う顔になんてさせたくないわ。私に出来ることは何でもするわ」

 
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