俺と初めての恋愛をしよう
今日子が、たくさんの荷物を下げて外通りに出ると、目の前の車に後藤が寄りかかって腕を組んでいた。その姿の様になることといったらない。
ちょっと怒っているような雰囲気をかもしだして近寄りがたい。すると、後藤が今日子に気が付き、近寄り立ち止まった。
後藤は驚いた顔をして、暫く黙っていた。

「あ、あの部長。遅くなってごめんなさい」
「……」
「あの、怒っらっしゃいますか? もうこんなに遅くならないようにしますから」

今日子は後藤にじっと見つめられ、その視線が怒っているように見え、一生懸命に謝った。
後藤は、今日子の持っている荷物を全て奪い取り、空いた手を掴み自分へ引き寄せた。

「ぶ、部長?」
「よかった、悲しんでいるんじゃないか、戸惑っているんじゃないか、困惑しているんじゃないかと心配でしかたがなかった」
「部長」
「楽しかったか? たくさん笑えたか?」
「ええ」
「なんだ、泣いているのか? きれいにメイクをしてもらったのに取れてしまうぞ?」

後藤は今日子の顔を覗き込むようにじっと見つめた。その目はとても優しかった。

「怒っていませんか?」
「怒ってなんかないぞ。とても綺麗だ、今日子。夜じゃなきゃ見せびらかして歩きたかった」
「本当に? 本当に私、綺麗になりましたか? 醜くはないですか?」
「醜い? 醜いのは、今日子をそう呼んだ者たちだ。俺は幸せものだ、こんなにきれいな女を自分の物にできてるなんて」
「その言葉を、今は信じたいと思います」
「今だけじゃない。ずっと俺の言う言葉は信じればいい」
「はい」

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