やさしい色
1:Silence
ふいにあたりが暗くなった。
一気に押し寄せてきた雲の影に、たちまち自身の影が呑み込まれる。
濃厚な土の匂いがつんと鼻孔を突いた。
ああこのにおいは、と眉をひそめて天を仰いだとき、頬にぽたりと雫が落ちた。
―――やっぱり。
足元へぽたり。もうひとつ、ぽたり。
みるみるうちに、道路が雨粒の染みで埋め尽くされる。
天気予報は確かに午後の降水確率を60%と表示していたけれど、まさか降ってくるとは思わなかった。
ちょうどよく傘なんて持ってない。
吉崎柊(よしざきのえる)はあたふたと鞄に手を突っ込み、ハンカチもしくはタオルを探した。
夏休み、汗の処理というエチケットと、天気の変わりやすいこの季節、こういう急な降りに備えて、出かけるときには必ずタオルを所持している。
ようやくフェイスタオルを引っこ抜き、広げたところで、
(あれ)
どうしてか嘘のように、ふっと雨が止んだ。
なんだもう終わり? となんだか拍子抜けな気分でタオルをたたもうとした次の瞬間、
「わっ」
今度は桶をひっくり返したような土砂降りになった。