やさしい色
(せめてカップルのいないところでとことん男臭く過ごせー)
みんなで仲良くゲームなクリスマスもいいじゃないか。
ジムに行ったっていいし、羽目を外して今からいきなり冒険に出ちゃったっていいだろう。
「柊ちゃん。これ、追加のシャンパン。並べておいて」
「あ、はい……」
―――ところで、彼女がいま現在いったい何をしているかというと……。
「すいません、16センチのショートケーキひとつおねがいします」
「いらっしゃいませー、おひとつですね、ありがとうございます。いっしょにシャンパンはいかがですか?」
言わずもがなの、ケーキ屋さんでのお手伝いである。
個人経営のケーキ屋で、ここの奥さんと柊の母とは旧知の仲。
それが縁で、どうかひとつと頼まれた次第だ。
毎年手伝いをしてくれるはずの息子の嫁が、稼ぎ時の1番忙しいときに離婚届を置いて出て行ってしまったのだというからひどい話である。
『―――同情した? したでしょ柊ちゃん?』
誰の誕生日でもクリスマスでもないのに、めずらしくおやつに供されたケーキを頬張る娘に、母は悲痛な声で問いかけた。
うん、と柊は神妙な顔で頷いた。
『なんか、わざとタイミングを見計らって出てった感じすらするよね。お気の毒』
次の瞬間、母の態度が一変した。
『だったらあなた、イブとクリスマス、そこ(ケーキ屋)行って売り子のお手伝いをしてきなさい』
『―――は!?』
不敵な笑みを浮かべ、母はすでに半分以上平らげてしまったカットケーキを目で示した。
『それ、そのケーキ屋さんからいただいたものなの。いただいたのわかる? お願いって』
『! そっ、そういうことは食べる前に言ってよ! 賄賂(わいろ)ってことじゃ―――』
『行くわね?』
完全に嵌(は)められたと、柊は悟った。