やさしい色
すぐと言ったわりに15分経っても帰ってくる気配がない。
すでに支払い済みなのでケーキはいくらでも置いておけるが、いつまでも帰ってこないと今度は彼自身の身に何かあったのではないかと不安になる。
最後の追い込みをかけ、仕事帰りかあるいは赤ちょうちんから出てきたか、
とにかくターゲットをサラリーマンに絞って、根気よく柊は声を張った。
健気な彼女に心を打たれたようなおじさまたちが、赤ら顔でケーキを買っていく。
帰って奥さまに叱られないといいけど、と思いながらケーキを渡し、
ラスト1個となったところで、何やらがやがやと折り重なるように人の声が集まり、柊に届いた。
ふと顔を上げると、先ほど柊の前を通りすぎた男の子たちがいた。
「まだあんじゃん」
「セーフだな」
すっかり寂しくなったテーブルの前を占領する少年たちに、柊は問いかける。
「お買い上げ…ですか?」
センターのぶかぶかパーカー少年が、はい、と代表して答えて、
かき集めてきたような、お札と細かい小銭をじゃらじゃらと取りだした。
中には一円玉もたくさん混ざっていて、数えるのに苦労したけれど、それはとても微笑ましい眺めだった。
ゲームでもジムでも冒険でもなく、お金を出し合ってケーキを食べるなんて、発想が女子のようだけれど、そういうのも有りだよな、と思う。
ガッツリ系のピザやオードブルより、ケーキを囲むことを選んでくれた彼らに感謝したい。
(これで、ラスト!)
かじかむ手でお釣りを正確に数え、連れの1人に渡すと、代表者の男の子にケーキの箱を差し出した。
―――が、よかったのはそこまでだった。
ありがとうございました、と心を込めて言おうとして、突如、
(!?)
被せるようにがしっと手を握られた。