やさしい色
とっさに手を引っ込めようとして、それが敵わないと知ったとたん、柊は青ざめた。
ねぇ―――手を掴んだ男の子は、切なげな眸で柊を誘惑せんとする。
「これで仕事終わりでしょ? 俺たちとケーキ、食べようよ」
「やっ、やめてください、そういうことは―――」
「お姉さんと食べたくて買ったんだよ。いっしょに行こう。楽しいところ知ってんだ」
全身が粟を噴く。
年下と思しき彼らは今や、年相応のあどけなさを完全に消し去り、獣を宿した性欲まみれの男そのものだった。
怪しすぎる誘い文句に吐き気がする。
「いいかげんにしてください!」
助けを求めて振り返るも、夥(おびただ)しい光溢れる店内は、レジにおばさんが詰めてはいるものの何やら下を向いて書き物に忙しく、
外の様子など意に介す素振りもない。
店内BGMは外まで聞こえてくるほど。
あくまで軽いナンパ風を装いひそやかに誘いかける彼らの声が中まで届くはずもない。
「やめて! やめてください!」
ばっと手を振りほどこうとして柊の手からケーキが落ちる。
心配する余裕はなかった。
最初からケーキが目的ではなかったのか……。
柊はぐっと唇を噛む。繊細な箱の中身を平気で無視して、逃がすまじと男たちはいっそう強く柊の手首を捕捉する。
「バイト代なら明日もらいに来ればいいじゃん。このまま行こ?」
力任せに引っぱられて腕が軋(きし)んだ。
前のめりにテーブルに倒れ、振動がシャンパンを揺らす。
はっと柊は首を捻った。
(入栄くんのケーキが!)