やさしい色

 今にも落ちそうに、テーブルの端で危うげに揺れている、予約済と紙の貼られたひときわ大きなケーキの箱を守らんと、柊は空いている方の手を必死に伸ばした。

 後になって考えると不思議な話だが、この瞬間、柊は己の身より、

 入栄が購入したケーキの方が大事だった。


(落ちる―――ッ!)


 這いつくばるような無様な恰好にも構わず、伸ばした指先がついに箱の縁に触れた。

 ……のは確かだが、触れたのは柊1人の努力の結果ではなかった。

 ケーキをより安全な場所へ移動しようと、テーブルの中程へと柊の手もろともそれを押した―――

 誰かが、いた。




「―――おい」


 顔を上げるより一呼吸分早く、低い声が静かに響いた。

 静かだが、凄みの利いた声に気圧されたか、柊を掴む手がにわかにゆるんだ。

 その隙に柊は彼らの拘束を逃れる。





「何してんだおまえら、……あ?」


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