やさしい色
声の主を見て、柊は目を瞬いた。
―――入栄だった。
常の温和な彼からは想像もつかぬすさまじい迫力に、思わず息をのみこんだ。
眦を吊り上げ、上から見下ろすように入栄は彼らに問いかけた。
「どこの学校の生徒だ、言ってみろこら」
「で、でけぇ……」
「やべぇこいつ、なんだ」
たちまち動揺を露わにし、何人かはすっかり竦み上がっている。
バレー部所属の入栄は身長が182センチある(という噂だ)。
対する彼ら―――中学生だろう―――は165から70までがせいぜいというくらいで、それでも柊よりは高いから脅されるとそれなりに迫力があるのだが、
入栄に眼をつけられたその比ではないだろう。
「どこの学校か答えろっつってんだよ。答えられねぇんならとっとと失せろ、戻ってくんな!」
「ひええぇっ」
まさしく這々(ほうほう)の体という感じで、少年たちは尻尾を巻いて夜の町を駆けていった。
忘れ物のケーキを入栄が拾ってくれる。
「すこし、潰れてるかな。もったいねーことすんな」
柊に向けられた声も口調も、まとう空気も、いつものやさしい入栄くんに戻っていた。
ほっとした。
「崩れちゃったかも。でも、いいよ……お金はもらってるから。
それより、ありがとう」
頭を下げると、被った三角帽子の先が流れてきて額にかかる。
それを持ち上げる気配がして、柊は反射的にまぶたを閉じた。
頃合いを見てそろそろと目を開ける―――と、またすぐそこに入栄の顔があってぎょっとした。
けれど、近づいたことで図らずも彼の上気した頬に気づくことができ、急いで来てくれたことがわかった。
ケーキは忘れていなかったらしい。
「だいじょうぶ?」
「う、うん。入栄くんが来てくれたから」