やさしい色

 柊は自身の頬に触れて目を逸らし、でもほんと笑っちゃうよね、と出来るだけ明るい声で言った。


「一緒に遊ぶならわたしなんかより他にもっとかわいい子がたくさんいると思うのに」


 そう言って、ああ、と柊は思った。

 かわいい子なら今日などすでに完売か……そうかだから彼らは自分を選んだのか―――


 と、かんがえるのはさすがにさびしすぎるか。


 すると、何故か入栄は怒ったように眉根を寄せ、


「何言ってんの」


 と言った。


「そんなの、吉崎さんが襲いたくなるほどかわいいからに決まってんじゃん」


 耳の奥でヤカンが沸騰するような音が弾けた。


「!! じょ、冗談が過ぎるよ」


 さっきからなんなんだもう。

 持って帰りたいだとか、襲いたくなるだとか……。

 積極的すぎるんじゃないか。

 しかも、そう言う彼の声が―――柊の願望が誇張して聞かせているのだとしても―――

 まんざら、からかっているだけのように聞こえないのが、なんともタチが悪い。

 真剣な眼差しでそんなことを言われて、けれど次に見たときにはいつものほがらかな笑顔に戻っている、その異常なまでの切り替えの早さ。

 目まぐるしく変わる表情と、それに合わせて使い分けられる声音の変化にいちいち踊らされて、男に免疫のない柊は心臓が保たない。


(からかいたいのか、そうじゃないのか、はっきりしてよ)


 恨めしい思いで入栄の手を見つめながら、でも……そうじゃないって、何がそうじゃないんだ、
 と自分で思い浮かべておきながら柊はいきなり困惑した。




(入栄くんがわたしとか、ありえないのに……)


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