やさしい色
「へ?」
「へ、じゃなくて、はいこれ、プレゼント」
「え、わ、わたしに?」
「そう。お誕生日おめでとう―――はい」
迷わず手を掴まれると、断る余地なくバラを握らされた。
Happy birthdayと金のシールが貼られたバラを暫しぽかんと見つめる。
そのうち、全身の血が沸騰したように、体中が熱くなった。
バラのプレゼントなど、生まれてこのかた経験したことのないものだった。
「わ、わざわざ買ってきてくれたの?」
「今日がクリスマスだからかな、まだ店やっててくれてよかったー。
ほんとは赤のがよかったけど、なんか微妙なのしか残ってなくて。
蕾のヤツとか、開きすぎたヤツとか」
入栄がくれたのは、淡いピンクのバラだった。
渦を巻くように、外側に向かうにつれ開いていく花弁、自然が生んだ造形美。
艶やかな濃い緑が恥じ入るような花房を強調している。
「クリスマスカラーって、どういう意味が込められてるか、知ってる?」
「それって、緑と赤ってこと?」
「あと白ね。
緑はキリストがかぶってた柊の冠、白は雪、赤はキリストの流した血を意味するんだって」
「血!?」
流血を想像して柊は慄然とする。
気持ちを汲んで、仕方ないよね、という表情をしたあと、でもね、と入栄は労るように穏やかにこう言い添えた。
「キリスト教において、赤はとっても重要な色なんだよ。
赤は見たまま愛の色。白は純潔、緑はモミも柊も一年中緑のまま色が変わらない常緑樹だから、
"永遠の命と永遠の愛"を示すって言われてる」
そこでいったん言葉を切り、入栄は白い歯を見せると、
「すごく、素敵な日に生まれてきたんだね」
安っぽいネオンに照らされた、枯れたような町の眺めが一転して色づいた。
入栄が去り、一粒の涙が柊の頬を伝った。