やさしい色
朝から雪である。
ごく薄く、墨汁を溶かし込んだような厚い雲からは絶えず花びらのような雪片が舞い降りる。
底冷えのする廊下は照明がともされず、なおのこと寒さが身に沁みた。
セーターの袖を引っぱって、隠せるだけ手を覆い、間もなくやって来るであろう人を柊は今か今かと待ち続けている。
「ごめん、待った!?」
白い息を吐き出しながら駆けて来るジャージー姿に柊は笑顔で首を振る。
「体育だったの?」
「そう、バスケ。あちぃ~」
頬を上気させ、袖まくりをした手でぱたぱたと扇ぐ。
ほのかに汗のにおいがして、きゅっと胸が締め付けられた。
気持ちを振り切るように柊は会話もそこそこに持っていた紙袋を持ち上げて、男に差し出した。
「これ、ミナから。今日、遠征で公休だから頼まれたの」
「あー、マジ? ありがとう、わざわざごめんね。ミナのやつ、人に頼まないで昨日のうちに渡してくれりゃあいいのに。
煩わせちゃったね、ごめん。ミナには俺から言っとくから」
柊は、そんな全然、と手を振る。
「気にしないで。あ、じゃあわたし用があるからこれで。
和眞くんも、風邪引かないように早く汗拭いた方がいいよ」
「うん、ありがとう。ほんと、ごめんね」
和眞に向けて軽く手を上げて、柊は小走りで廊下を進んだ。
……用があるなんて、うそだ。
教室へ向かう道を逸れて、一心不乱に階段を降りる。
寒風に晒される渡り廊下まで速度を落とさずやってきて、誰もいないことを確かめると、
ひと一人がゆうに隠れられる柱の影に身を滑り込ませた。