やさしい色

 迷いと躊躇に縁取られた、頼りなげな和眞の手に、確かな握力がかかる。

 必死の形相で柊の肩を掴み、揺さぶりながら彼女の顔を覗き込む。


「動けないの? だったら俺が」

「きゃっ!?」


 反応の鈍い柊に焦れて、和眞はいきなり彼女の膝の裏に手を差し込んだ。

 腕に力を込めて、一気に持ち上げる。

 思考が追い着かないままわけもわからず宙に上げられ、おどろいて、もがくように和眞の肩にしがみつく。

 かすかに濡れた襟足が柊の頬にひやっとした。

 心臓が、貧しい胸を突き破らんばかりに跳ね上がる。


(鼓動、が……!)


 ―――ばれたら。

 意味もなく息を止める柊を横抱きにしたまま、和眞はひとまず寒風に晒されない場所へと移動して、彼女を下ろした。

 片膝をついて、まるでナイトのような体勢で訊ねる。


「俺の身体の心配する前に、自分の身体の心配するべきだよ。
 あんなところでじっと座り込んでるなんてどういうつもり?」


 声にも目にもうっすら険の色がうかがえた。

 きまりが悪く、柊はまぶたを伏せる―――伏せかけて、



「―――って、柊ちゃん、その目……」


 刹那、和眞の目に複雑な色が散った。

 見てはいけないものを見てしまったような罪悪感と戸惑いが交互にちらつく。

 はっと柊は目を覆った。


 赤くなっていたのだ、たぶん。


 目頭を拭い、何か言わねばとあわてて言葉を探したとき。

 わずかな焦燥が、たじろぐ和眞の口を強引に押し開けた。


「―――なんか、あった!? あったんでしょ!
 どうしたの。言って。誰かになんか言われた?
 いじめられたの?」


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