やさしい色

 柊は首を振る。

 ちがう、と蚊の鳴くような声で否定するけれど、すぐそこで自分を見つめる和眞の強い眸にたちまち心は脆くなる。


 この声。この顔。


 揺らぐ。


 そんな目で、わたしを見ないで……。



 ふさいだ傷が疼いて、苦しい。

 胸が、潰れる。



「柊ちゃん……」


 不安げな声―――……

 この瞬間、柊だけを案じて紡いでくれている切ない響きが、すれすれのところで守っていた心の箍を外した。

 唇を引き結んだ瞬間、抑えきれず……ぽたり、涙が落ちる。



「! の、柊ちゃん……っ」


 和眞の吐息を直に感じて、柊は身を固くした。

 頬をくすぐる襟足のやわらかさが切ない。

 制服の奥からじわじわと和眞の体温を感じて、柊は己の罪深さを痛感した。


 彼の熱と匂いと、息づかい、


 触れ合うこと―――……



 それらを許された人間は限られている。

 小さな額を乗せた強張った肩が、和眞が、背徳の現状に戦いていることを彼女に伝えた。


 柊ちゃん、と低く名を呼んで、華奢な肩に触れる和眞の手は、彼の人格を正確に反映して、優しい…………


 優しいから―――清い。



 彼の、潔癖たる意思に動かされる迷いのない手に、柊は抗う術がなかった。


 ……己の醜さ、浅ましさが、柊の身体から自由と体温を奪う。


 二人の間を吹き抜ける冷たすぎる風。


 和眞の手の中、凍りつく柊を彼はこわいくらいまっすぐに見つめてくる。

 柊は必死に気持ちを立て直し、和眞が何かを言う前にと声を振り絞った。


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