やさしい色
次いで聞こえた忍び笑いを訝しみ、柊はおそるおそる視線を上げた。
「トラック、もう行ったけど。水、飛ばんかった?」
気遣う声の主を認めて、柊は目を見開いた。
「いっ、入栄(いりえ)くん!? え、ど、どうしてここ……」
「それより水、だいじょぶだった? とっさに傘でガードはしたんだけど、隠しきれたか自信ないんよね」
言って、確かめるようにつぶさに身体を見つめられ、恥ずかしさで柊は身を捩(よじ)る。
そういえば、全身びしょ濡れになる予定が―――
いや、すでにびしょ濡れではあるのだが、それはすべて空からの乱暴な贈り物で、正面からは一滴も被害を受けていないような―――……
おもむろに入栄がビニール傘を振ったのを見て、ああっ、と柊は声を呑み込んだ。
「ごっ、ごめんなさい! 傘、こんな……わわ、どうしよう……っ」
トラックから柊を守ってくれたときに、泥水をまともに被ったらしい。
透明なはずの傘に無惨な斑模様ができている。
柊は青ざめて、勢いよく頭を下げた。
「べっ、弁償し―――」
「おおっとー! ほーっ、これまたセーフ!」
満足そうに言って、はい、と差し出されたのは、頭に乗せていたタオルだった。お辞儀で落ちかけたのをとっさにキャッチしてくれたのだ。