やさしい色


 ……実際、出会って間もないうちは、和眞は、柊の方が好きだったのだ。


 だが、柊が和眞を想いはじめた頃、ときを同じくして、

「和眞が好きだ」と、ミナが一足早くカミングアウトしてきたのだ。


 ―――だから協力して、と。



 ……断れなかった。


 今もそうだが、……わたしは弱い人間だ。


 友だちを失うことが、単純に怖かった。


 わたしも好きだと告白すれば、まず間違いなく今までどおりにはいかなくなる。

 よき友、よきライバルとしてあくまでもフェアプレー、抜け駆け禁止の清き誓い―――


 ……そんなものが守られるはずもない。


 カミングアウトし合った後で、どちらかが彼と付き合うことになったらなおさらだ。

 良好な関係を保てるという保証は限りなくゼロ。

 ぎくしゃくして、たまらず別れて今から他の友を、居場所を探すくらいならと、柊は自分の気持ちをその瞬間だけ打ち消した。

 ……性根が貧しくて、狡猾で、そのくせ何もできない弱虫。

 自分で自分の首を絞めて、折節に「バカをした……」と嘆いては、でも、独りぼっちになるよりはマシでしょ、とつまらない言い訳をして、かわいくてかわいそうな自分を、大事に大事に慰めて―――……




 そんなときた。


『いいよ』――と。




 ……今なら、だいじょうぶだとおもった。

 赤子を攫(さら)うようにそっと、ごくごく無害な風を装って、柊は落ち込む和眞に近づいた。




「……でも、結局言えなかったんでしょ」

「うん……」




 臆病で小心者で、浅ましい自分が、そんな進んだ行為に踏み切れるはずがない。



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