やさしい色
柊は自らの額を押さえる。
「バカみたいだよ……。どうしてあのときチョコレートなんか用意したんだろ。もう、バレンタインは過ぎてたのに」
遅ればせながらって……?
……ない。
口実から入ろうとするあたりから、気迫が足りない。賎しさが見え隠れする。
気の利いた言葉ひとつ、
そっと抱きしめたっていい……あるいは、
まだまだ発展途上とはいえ自身が女であるという決定的な事実を武器に立ち向かおうとしない、
その時点で、己の覚悟の度合いが知れる。
略奪を企てながら、己の気の弱さも、振り切れない後ろめたさが枷になっていることも、あまりにちっぽけで、
自分には、ここぞというときの度胸も、魔性の持ち合わせも欠片ほどもないのだと、柊は自分を嘲笑(あざわら)った。
略奪なんて、所詮、戯れ言……。
思い立った瞬間が彼女のピークだったのだ。
口だけ達者な人間と同じなのだ。
―――意気地なし。
柊は、和眞にシンプルな包装のチョコレートを差し出した。
「これ、ミナからごめんねの証(しるし)って……意地になって渡すの遅れてごめん……って、頼まれてもないこと、勝手にしたの。彼は走って彼女のところに走っていった。
何も知らされてなかったのに、2人は仲良しに戻った。
あとから、柊が気を遣ってくれたんでしょってミナから感謝されて……
うれしかったけど、でも、うれしくなかった。
だけど、前みたいに寄り添って、楽しそうな2人にほっとしたのは事実で……」
声が掠れて言葉が詰まる。
柊は顔を覆った。
後から後から涙が溢れだして止まらない。