やさしい色

 だが、憎いのは憎いとして、一方で、男が余念も過ぎらぬほど一途に恋人を想い続けてくれるから、ある意味、彼女をどん底まで突き落としてくれたからこそ、

 俺にも可能性というものが生まれたわけだが……。


 バレンタインからこっち、彼女は確実に俺を意識してくれている。

 想いを告げた俺ももう、何の遠慮も手加減もしなくていい分、最近は前にも増して積極的に彼女に近づくし、触れてもみる。


 が、交際にまでは至れていない。


 ……俺が、踏み切れずにいる、ということもあるのだろう。

 心が優しく、潔癖な彼女は、俺がどう言おうと、別の人を好いていながら他の人と付き合うわけにはいかない、という頑とした思いがあるように見受けられる。

 それでもいいからと言いたいと自分と、妥協を嫌がる胸の内がせめぎ合う。

 俺が仮に、好きな人が他にいてもいいから付き合ってと、強引に押し切ったとして、それで、罪悪感を抱えたままの彼女を振り回すようなことや、無理に気を使わせたり、煩わせたり、また彼女の信念を曲げさせるようなことは、俺の望むところでもない。

 彼女の気持ちや考えは、できるだけ尊重してあげたい。

 それが、俺との交際を真剣に考えての葛藤ならばなおのこと、不躾に口出しをせず、せっつかず、見守っていたい。




 が、いくら好いているとはいえ、


 俺にも我慢の限界がある―――……。



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