やさしい色
何をもって、つくづくなどという強調の副詞を用いたのか。
仲違いしたときにチョコレートを持ってきてくれたから?
だがあれは、彼女のほうは方便的なものだと―――2人を見かねた吉崎が機転を利かせ行動してくれた嘘だとは知っていても、
和眞くんの方はただのお使いという認識でしかないのではないか。
彼女から聞いたのか?
いや、まさか。
そんなことを漏らせば、せっかくの和解が台無しになる可能性だってあるじゃないか。
直接頼んで言葉を届けてもらうのと、誰かが事態を好転させてくれるのをひたすら待ち、祈りが届いた故の吉崎の代弁だったというのとでは、
和眞くんが相手の気持ちを受け止めるとき、感じ方や心の痺れに天と地ほどの隔たりがあるだろう。
……その危険を冒すか?
そんなの、よっぽどの馬鹿だ。
「知ってる」
「うん。
―――でも俺は、入栄のことはよく知らない」
いきなり男のまわりを漂う空気が変わった。
変わらない、その無垢であかるい眸のまま、しかし、注がれる視線から受けるのは、粘性のある値踏みの不愉快さ。
勉強は不得手だと聞いているが、人となりを見極める目だけは確かだとでも言いたいのか。
―――……それがなんだ。
それまでの、血の通った好意的な笑顔が、たちまちのっぺりとした色のない仮面になり、入栄は下腹部に力を込める。
(ヤな男だな)