やさしい色

「そういう気はないつもりだけど、否定はできない」

「吉崎さんに未練があんの?」


 誰かのものになると、なんとなく妬ましい気分になる、とか? 

 現状、恋人がいるにも関わらず、かつての想い人の恋路が気になるか。


 だとしたらずいぶんな話だ。上様か。パパか。



「ないよ」


 和眞くんはきっぱり答えた。


「かわいいなぁとは思うけどね。彼女の友だちとして。それ以上はないよ」




 これからも、きっと―――。




 それを聞き、ほっとしている自分に気づいたとき、入栄は急に悔しくなった。


 ……けれどその心のざらつきを宥めて、なおかつ背中を叩いてくれるのも、悔しいが、やっぱりこいつで。



「―――だから俺は、柊ちゃんの幸せな姿を、ちゃんとこの目で見届けたい」



 スポーツマンの性か、プレッシャーは入栄にとって何よりの励ましだった。

 恋でもスポーツでも、敵対心を抱く相手からのアクションが、良くも悪くももっともダイレクトに心に響くのだろう。

 とくに、その炎を燃やす相手が和眞くんだからこそだとも、入栄は思った。


 彼女の幸せを祈る彼の真心は、多分、俺とほとんど大差がない。


 悔しくて悔しくて、くやしくて胸が痛い。


 だから、唯一、俺が和眞くんに勝てること。



 俺が、吉崎さんを幸せにしたい。



 その瞬間、入栄は強く、強く希った。




 ―――……けれど。


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