やさしい色
(……なんか、しずかになっちゃった)
傘の下、2人―――。
漫画のような状況に否が応でも鼓動がはやる。
雨音は絶えずつづいて、うるさいことこの上ないのに、
その音すら蹴散らして響くのは、やけに騒がしい胸の心音。
沈黙がくるしい―――……。
「いきなり強くなったよなー」
「ほんとに」
「次のバスに乗るんか?」
「うん。入栄くんは?」
「俺も。吉崎さんって、バス通なの?」
「ううん。自転車だよ。入栄くんも……だよね?」
「うん。今日だけトクベツ。今からばあちゃんち行く予定なんだ。
学校は自転車で余裕に通える圏内。
通学以外でも、バスとか電車とか滅多に使わないよ、俺」
「中学は、市内だっけ?」
「うん。お互いナンバースクール……だったよな?」
「わたし、1」
「俺は5。1ってどこだっけ」
「物産館のあたり」
「ああー」
バスは空いていた。
乗客の何人かは柊たちと同じように痛々しいほどびしょ濡れで、それより先に乗っていた人たちがそれを見て、
露骨に嫌そうな顔をしているのには憤慨したけれど、無理もなかった。
シートがビニール加工されていなかったら、柊たちだってこうも呑気には座っていない。
バスに乗り込むと、入栄は迷わず最後尾の席を選択した。
柊は両替をしたかったので、優先席を空けて、一番前のシートに座った。