好きな人が出来ました。
メールのやり取りを初めて1週間が経った。
返信してすぐに返事が来ることもあれば、何時間も返ってこない時もある。
最初の頃は≪メールに飽きたのかな≫と不安になった時もあったけれど、きちんと返ってくる事が分かり、気にしなくなった。
どんなに遅くても絶対に返事は着た。
私は、彼からのメールに個別設定を施した。
赤いライトが光、小刻みに振動すれば彼からのメール。
いつの間にか、短い文章の中身のないメールのやりとりを、心から楽しく感じている事に気がついた。
それでも、時々気づかされる。
彼には、好きな人がいるのだと。
『喋ったことはほとんどない。』
『相手は自分を覚えているか謎。』
『笑うと、笑窪が出る』
自分が最初に訪ねたくせに、彼の好きな人を知れば知るほど苦しくなる。
私は、また彼に恋をしたみたいだった。
いや、もしかしたら、忘れたと思い込んでいただけで、本当はまだ好きだったのかもしれない。
「蒼、卒論のテーマ決めた?」
「まだ決めてない。京香は?」
「私もまだ。まっつんは?」
「俺、恋愛方面かなー」
「「あーぽいぽい」」
京香とハモリながら言えば、でしょ。と得意げに返す松本に二人で笑った。
心理学を専攻している私たちは、そろそろ卒業テーマを考えなければならない。
卒業後の進路を、就職と決めている松本は良いが、私と京香はまだ院に進むか、就職するか悩んでいる。
院に進むとなると、卒業論文はそれを左右する大切な課題になる。簡単には決められない。
携帯のバイブが小刻みに震えた。
『バイト、本屋?』
「ん?」
「どうしたの、蒼」
「いや、何かバイト先聞かれて…」
「あー初恋の人に?」
「うん。」
「えっ、初恋の人?何それ!?俺聞いてないよッ!?」
騒ぎ始める松本を余所に、返事を打つ。
『本屋だよ』
彼が私について尋ねるのは、初めての事だった。
「…なんか、蒼、恋する乙女みたいなんだけど」
「みたいじゃなくて、そうなのよ、まっつん」
「お父さん、さみしい」
メールの内容に、少し浮かれていた私には、友達二人の会話なんて聞こえていなかった。