四つ葉のクローバー
あるとき、サッカー部の3年生引退試合を友達の千夏と観に行った。
「ひな!勇人先輩いるよ!」
試合が始まる前、勇人が観客席の近くで友達と話していた。
「ほんとだ!やっぱり勇人先輩かっこいい…。」
「…あれ、勇人先輩なんか落として行かなかった?」
「え…?あ、ほんとだ。タオル落としちゃってる…。」
「ひな…!」
「なに?」
「拾いに行きなっ!ほら!早く!」
「えっ…?」
あたしは千夏に背中を押され勇人が落としたタオルを拾いに行った。
「…拾ってきちゃったけど…。」
「それ勇人先輩に届けなきゃね。」
千夏はニヤリとして言った。
「…えっ…えっ…届ける!?」
「当たり前でしょ。あんたそのタオル拾ってどうするつもりだったの(笑)?」
「…考えてなかったっ!
…届けるって…勇人先輩に話し掛けなきゃだめってことでしょ!?」
「そりゃそうでしょ…。
てかあんたばかだねえ(笑)」
「無理無理!」
「ひな〜…。そんなこと言ってたらあんたずっと見てるだけで終わっちゃうじゃん…。」
「だって〜!勇人先輩に話し掛けるなんて…!」
「ばか!行動しないとなんも変わんないよ!」
「無理だって!」
そうやって言い合いをしている間に試合が始まってしまった。
「あっ!ほら試合始まっちゃったじゃん!あんたが無理無理言ってるから!」
「だって〜…。」
あたしは試合に出ている勇人をじっと見ていた。
あんなかっこいい人に話し掛けるなんて無理…。
あたしはタオルのことばっか考えてしまい、あんまり試合に集中できなかった。
どうやって話し掛ければいいの…!?
もし気づいてもらえなかったら!?
てか勇人先輩ゴール決めた!?
か…かっこいい…!!!
ヤバい、やっぱりあんな人に話し掛けるなんて無理に決まってる…!
そんなことを考えているうちに試合は終わった。
残念ながら、勇人のチームは負けてしまった。
「残念だったね〜…。
…さ…。ひな、勇人先輩のところに行きますか!」
「…え…。む…無理っ(涙)!」
「ばかっ!」
「なんて話し掛ければいいんだよぉ〜!」
「普通に、これ、落とし物です、とか言えばいいんじゃん。」
「無理!」
「ばかっ!」
「無理!」
「ばか……あっ!!!」
「なっなに!?」
「勇人先輩!」
タイミング良く…悪く?気づくと勇人があたしたちの近くに来ていた。
「ひな!ほら!行きな!」
「…えっ…。」
千夏に、ドンッ、と背中を押されてしまい、あたしは勇人の前にでてしまっていた。
「……あ……。」
気がつくと、勇人との距離はすごく近くて、勇人をあんなに間近で見たのが初めてだったあたしは、心臓がとまってしまうんじゃないかと本気で心配してしまった。
「?」
いきなり目の前に飛び出てきたあたしに、勇人はびっくりして、不思議そうな顔であたしを見ていた。
「……あっ…あのっ!…こ…これっ…!おと…落としてまし…ましたっ!」
…もう自分が何て言ってるのかわかんなかった。
気づくと口が勝手に動いていた。
「…え…。ああ!サンキュ。
わざわざありがとな。」
…!!!!!
それあたしに言ってるの…!?
あの勇人先輩があたしに…!?
たったそれだけのことで、
あたしは嬉しすぎてどうにかなりそうだった。
…なのに…
「名前、何て言うの?」
…な…名前を聞かれた〜っ!?
「…えっっ…!江角っ…ひな…でつっ…!」
…でつって!あたし!でつって!
もう!!!
「ひな…?可愛い名前だな。
タオルほんとサンキュな。」
………!!!!
…………ああああぁぁ!!!!
…や…やばいっ!!!
嬉しいっ(涙)
「…い…いぃ…いえいえっ。
ゆ…勇人先輩…か…かこ…かこよかた…でつ!」
…あたしっ…何言ってんの!?
てかまたでつって(涙)!
「…ありがと。負けちゃったけどな(笑)。」
そう言って勇人ははにかんだ。
…………!!!!
勇人先輩………
かっ……かわいいっ!!!
あたし今幸せすぎてどうにかなりそうだわあ〜…!!!
「じゃ、今日は試合見に来てくれてありがとな。あとタオルもサンキュ。」
そう言って勇人はあたしに軽く手を振り、友達のところに行った。
……………。
……ヤバいよ……今日……。
あの勇人先輩と喋ったなんて…。
「ひなっ!」
「ちっ…千夏〜っ!!!ありがとぉ〜!!!千夏のおかげで勇人先輩と話せた〜っ!」
「あたしの言う通りにしてよかったでしょ。」
「うんっ!」
勇人と話せた、たったそれだけのことで、その日はずっとにやけがとまらなかった。