赤い狼 伍
「みどり…っ。私、体冷たいからっ、」
「いいですよ。稚春嬢ちゃんの方が大事です。」
「………っ、」
ヤバイ。顔から火が出る。
私の方が大事とか、世の中の男が言うのをためらいそうな言葉をさらっと言って優しく微笑むみどりは天然なのか、計算しているのか。
どっちなのか分からないけど、私の気持ちが楽になってきたのは事実。すると、
「ね、我が儘言っていい?」
気持ちが楽になってきたと同時に私の甘えたい病が発動してしまった。
みどりの服の裾を掴みながら言った私に、クスリと笑って私の頬を撫でる。
「稚春嬢ちゃん知ってます?」
「…何を?」
「俺は稚春嬢ちゃんの我が儘ならいくらでも聞くんですよ?」
「わっ、」
と、
みどりの顔がゆっくりと近付いてきた。
「稚春嬢ちゃんは怖い夢を見た後、これをされなきゃダメですもんね?」
遠のいていく気配を感じて閉じていた瞼をそっと開ける。それと同時にみどりの唇が私から離れていって。
「おでこにチュー、されないと嫌なんだろ……?」
「………っ、」
くすり。いたずらな笑みを浮かべて私の頭を撫でた。
それはそーなんだけどっ!そうしてって言おうとしたけど、それってなんだか!!
「子供扱いすんなっ!」
「じゃあこれからしなくていいんですね?」
「………っ!!」
「稚春嬢ちゃんって分かりやすすぎですよね…。」
「うううう煩いっ!」
クスクス。楽しそうに笑うみどりを横目で見て部屋から追い出す。
ピシャンッ!と閉めた襖の向こうで、みどりがまだ笑いながら「元気になったみたいだな。」と呟く声が聞こえて「ありがと…。」と呟き返した。