赤い狼 伍
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―――
「…………はぁ。」
「ため息つくな。」
「……はぁーあーぁ。」
「なんだそのため息。」
「………。」
「お?」
「…………、だぁああぁー!!!!!」
「………っ!?」
昼頃。二人の男が《SINE》のいつもの部屋で過ごしていた。
「クソつっっまんねぇ!!」
「こら、クソとか言ったらダメだろ。」
「だって稚春…。稚春稚春稚春稚春ー!!」
「………。」
もう何度目か分からない、コントローラーを握りしめる男の嘆きにまたか。と静かに息を落とすパソコンをいじる男。
稚春が《SINE》から居なくなってから数日。
たったの数日なのにもう我慢できないとばかりに嘆き、悲しむ男に我慢できないのか、コイツは。ともう一人の男は眉間に皺を寄せた。
「なぁー、棗ー。」
「何。」
「なんでそんなに怒ってんだよ。ただ呼んだだけじゃねぇか。」
「連のさっきまでの嘆きが煩かったからだよ。」
そう言いながら「邪魔だな。」目にかかった自身の金の髪をはらう男。その様子を見ながらもう一人の男が「だってよー。」呟いた。
「何?」
「稚春が居ねぇとつまんねぇもん。会いてぇもん。好きなんだもん。しょーがねぇだろ…。」
「………。」
俺も稚春のこと好きなんだけど。忘れてない?
そう思いながら男はパソコンのキーを打つ手を止めずに言う。
「そうだよねぇ。静かだよね、稚春が居ないと。」
稚春がここを去ってからそんなに経っていない。だけど、彼らにとって稚春が居なくなったことによる影響はありすぎた。
奏は隼人が妃菜を選んだなら出ていくと決めていたと言って《SINE》と関係を一時的に切った。
銀は女遊びが楽しくて仕方ないとかいう理由で《SINE》に行かなくなった。だが、それは表面上の理由で本当は稚春が居ないから《SINE》に行く価値がなくなったからだった。
隼人は妃菜のことで手一杯らしく妃菜の家にばかり行き、この頃《SINE》には来ていない。
連はさっき同様、ゲームばかりしては稚春を思い出して嘆いていて。
棗はというと、この状況でも《SINE》を衰退させるわけにはいかないといつもの仕事をしながら《SINE》のあまりの静けさに寂しさを感じつつあった。